1.翻訳ルールとは
日本語を中国語に翻訳するときや中国語作文のとき、われわれが心得ておくべき文法的、語い的なルールを「翻訳ルール46」として一覧で示す。
配列はより基本的なものから応用的なもの、より機能語にかかわるものから実質的語い的なものという順に並べてあるが、これはおおよその傾向であり、かならずしも厳密なものではない。
本辞典の本文において、例文のあとにやなどと示してあるが、これは当該例文において、日本語から中国語へ翻訳するに際し、本欄のやで示されるようなルールが使われていることを表す。すなわち、正しい中国語にするためには、日本語を字句どおりに訳すのではなく、これらの翻訳ルールの適用が必要であることを意味する。
また、ここに載せているものは日中翻訳においてよく活用される主なルールのみである。このほかにもさまざまな規則が考えられる。なかんずく、より常識的なもの、コラム的な知識に属するものは「ルール以前」として本書の各所に囲みとして配置してあるので、そちらも参照されたい。
なお、ルールが適用される例文であっても、かならずしもそのすべてに漏れなくルールを付加したわけではない。わかりやすく典型的な例文に限ったことをお断りしておく。
本辞典を活用されるにあたっては、随時「翻訳ルール46」をひもとかれ、学習し、やがてこれらに通暁し、中国語作文において無意識のうちに諸ルールを適用するに至っていることが望ましい。
日本語の文には「1つ」がないのに、それに当たる中国語の文には“(一)个”などの量詞が現れることがある。
“前边儿来了一个人。”(前から人がやって来た)
“我有个好办法。”(いいアイデアが浮かんだ)
つないだ手
1「彼に電話してみてください」のように、「ちょっと」「ついでに」といった軽いニュアンスがある場合、中国語に訳すと量詞が入る。
例:彼に電話をする。/给他打个电话。
郵便局に手紙を出しに行く。/我去邮局寄封信。
2「だれか」「どこか」を用いた日本語の文のうち、「だれか人を見つけて何かをする」「どこか場所をさがして何かをする」という意味を含むときは、中国語では、「人を見つけて」や「場所をさがして」の部分を言語化する。このとき、量詞を加える。
例:だれか(人を見つけてその人)に聞いてみましょう。/个人问问。
どこか(場所をさがしてそこ)で座って話しましょう。/个地方坐下来聊聊。
3日本語の「この・その・あの・どの+名詞」を中国語で表す場合は「“这。/那”+量詞+名詞」となることが多い。
例:その辞書は北京で買いました。/那本词典是在北京买的。
あのご夫婦はだれに対してもとても親切だ。/那对夫妇对谁都很热情。
4日本語には動作の回数や時間量がないのに、中国語では動量詞が現れることがある。例:兄は私をなぐった。/哥哥打了我一下。
春節には家に帰るつもりだ。/春节准备回趟家。
2.★用例集
例:早朝強い地震があった。/清早发生了一场很强的地震。
このビルは36階ある。/这座大楼有36层。
この薬ならたいていの薬屋にある。/这种药一般药店都有。
私たちは初対面のあいさつを交わした。/我们初次见面、寒暄了一番。
青味を添える。/配上点绿菜。
この工事は年内にはあがりません。/这项工程年底以前完不成。
月の明るい夜だった。/这(那)是一个月光皎洁的夜晚。
ポストに空きが出た。/有一个空缺的职位。
考えあぐねた末、兄の知恵を借りることにした。/我想来想去都想烦了,最后决定请哥哥给出个主意。
手であくびを隠した。/用手捂着嘴打了个哈欠。
スマッシュが鮮やかに決まった。/扣了一个漂亮的好球。
ユーモラスな動作が親近感を与えた。/幽默的动作给人一种亲切感。
を壁にぶつけてこぶをつくった。/头撞在墙上肿了个包。
あたら絶好のチャンスを逃した。/很可惜失去了一个绝好的机会。
熱いお茶をください。/请给我一杯热茶。
ハローワークで仕事をあっせんしてもらった。/职业介绍所给我介绍了一份工作。
事務所におあつらえ向きな部屋が見つかった。/到了一个非常适合作办公室的房间。
板に穴をあける。/在板子上打个眼儿。
3.文脈に隠れた代名詞をさがせ
日本語では話し手の考えや気持ちを表す動詞(思う、…しよう)、感情を表す形容詞(うれしい)や、謙譲語などがあるときは一人称主語を省略できる。また、相手に関することや相手への質問・依頼のとき、あるいは尊敬語があるときなどは二人称主語を省略できる。しかし、中国語ではそれぞれ代名詞“我(们)”や“你(们)”“您”を補う必要がある。
このほか、日本語では文脈からわかっている人称代名詞・指示代名詞は言わないことが多いが、中国語では明示する。
例:彼にお祝いをあげたところ、とても喜んでくれた。/我送给他礼物时,他非常高兴。
まだ読み終わってないのよ。/我还没看完呢。
そう言われると、ほんとうに一言もありません。/让你这么一说,我就真的没话可说了。
お上手を言われても、だまされません。/你就是说得再好听我也不会上你的当。
昨日はお会いできなくて残念でした。/昨天没能见到你真是遗憾。
彼に声をかけたのに、無視された。/我向他打招呼可他却没理我。
少女はうっとりしたまなざしで青年を見た。/少女出神地看着那个青年。
部屋のエアコンがうるさい。/这个房间的空调噪音很大。
話し手と聞き手が近く、見えたり指したりして指示するものがわかる場合は指示代名詞“这”を、指示するものが遠い場合やその場にない場合は“那”を補う。
例:かばん、外国製でしょう。/这包是外国货吧?
どこのメーカーの。/这什么牌啊?
きみがかいた絵でしょう?/这是不是你画的?
4.例:建設計画は住民の大反対に遭った。/那个建设规划遭到了周围居民的强烈反对。
列車に乗り遅れたおかげで、事故に遭わずに済んだ。/因为没赶上那趟火车才幸免于难。
女優は胸のあいたドレスを着ていた。/那个女演员穿着一件露胸的礼服。
小包をあけたら中身がいたんでいた。/我打开那个包裹一看里面的东西都已经烂了。
おばあちゃんに手紙を読んであげなさい。/你把那封信给奶奶念一下。
どこの店にもあるというのとは物が違う。/这跟哪个店里都有的东西不一样。
どうぞワインをお飲みあそばせ。/您请用葡萄酒。
先生にしかられた生徒はこうべを垂れてしおれていた。/那个学生挨了老师的批评耷拉着脑袋无精打采。
あの人の話を聞いて、人間としての厚みを感じた。/听了那位的话感到他为人很忠厚。
プロジェクトのあらましをお話ししましょう。/我说明一下这个项目的梗概吧。
教授はこれまでに50冊以上の本を著した。/那位教授至今已经写了50多本书。
仕事で手腕を発揮した。/在工作中显示出自己的本领。
あろうことか出発前にパスポートが期限切れであることに気づいた。/出发前我居然发现自己的护照过期了。
そんな哀れっぽいことを言ってもだめだ、お金は貸せないよ。/你说得那么可怜巴巴的也不行,我不能借给你钱。
男は案内なしにずかずか家にあがりこんだ。/那个男人没等主人出来就自己闯进来了。
油断してはいけない、あいつは人を言いくるめるのが上手なんだ。/你要小心,他很会用花言巧语骗人。
「ただではおかないぞ」と男は息巻いた。/那个男的大发雷霆地说:“绝不能轻饶了他(你)!”。
このことは外に漏らさないでいただきたい。/希望您不要把这件事传到外面去。
ご一緒させていただきます。/请允许我跟你一起。
5.名詞の場所化
名詞には場所を表すものと、そうでないものがある。“在”“到”“往”“从”の後ろや、存現文(“墻上贴着很多画。”壁にたくさんの絵がはってある)などで、場所を表す位置に以下のタイプの名詞がくるときには“上”や“里”などをつけて場所化する必要がある。
1場所を表さない名詞――“口袋”“书架”“冰箱”など。
例:ポケットには財布が入っている。/口袋里有一个钱包。
本棚にたくさん本があります。/书架上有很多书。
ビールは冷蔵庫にある。/啤酒在冰箱里。
ポットの水をあけてください。/把暖水瓶里的水倒出去。
彼は理論を実践に生かした。/他把他的理论应用到实践中去。
2単音節の名詞――“河”“天”“海”“街”“手”“床”など。
例:胸にバッジをつける。/胸前戴着徽章。
3“子”が後ろにつく名詞――“院子”“房子”“屋子”“村子”など。
例:部屋にはたくさんの家具がある。/屋子里有很多家具。
4人を表す名詞には後ろに“那儿”“这儿”をつけて場所化する。
例:自転車は彼に預かってもらっている。/我的自行车放在他那儿。
★用例集
例:足にまめができた。/脚上起了(水)疱。
この湖の氷は厚さ5センチもある。/这个湖里的冰居然有五公分厚。
板に穴をあける。/在板子上打个眼儿。
ある人からこの話を聞いた。/我从某个人那里听到了这件事。
鉛を型に鋳込む。/把铅浇进模子里。
庭にバラを植えた。/在院子里种上了玫瑰花。
少女は目に涙を浮かべていた。/那个少女眼里含着泪水。
子どもたちがおもちゃの船を池に浮かべて遊んでいる。/孩子们把玩具船放在池子里玩儿。
うっかりして定期券を家に忘れてきた。/一时马虎把月票忘在家里了。
6.親族名詞に所属先を
われわれが「お父さんはお元気」というところ、中国語では「あなたのお父さんはお元気」(你爸爸好吗)という。「あなたの」は日本語ではしばしば省略されるが、中国語では家族以外の人との会話では親族名称の所属先(“你”“我”“他;她”)を入れることが多い。このほか、人間関係を表す名詞(“朋友”“同事”“老师”)などについても同様の現象が見られる。
例:母は会社員である。/我妈妈是公司职员。
お嬢さんはいくつですか。/你女儿多大了?
ご両親はお元気ですか。/你父母都好吗?
王さんは妻と実家に帰った。/小王跟他妻子回老家了。
従妹いとこは来年中国に留学に行きます。/我表妹明年去中国留学。
先生は大学を出たばかりです。/我们老师今年刚大学毕业。
★用例集
例:上司は愛社精神にあふれている。/我的上司把公司看得比什么都重。
友人は経済的理由で留学をあきらめた。/我的朋友因经济上的原因打消了留学的念头。
伯父は両親の意に背いて伯母と結婚した。/我伯父违背父母的意愿跟我伯母结了婚。
娘は1人で上海へ行くと言い張っている。/我女儿坚持要一个人去上海。
ひとり息子の死は両親にとって大きな痛手であった。/独子的死使他父母受到沉重的打击。
私の目のは母からの遺伝です。/我眼睛的颜是从我妈妈那儿遗传来的。
お父さまはいらっしゃいますか。/您父亲在吗?
妻は前夫の子を2人産んでいる。/我妻子和她前夫之间有两个孩子。
お母さまから伺いましたが、中国に留学するそうですね。/听你妈妈说你要去中国留学。
あの子の後ろ姿は母親によく似ている。/那个孩子的背影很像她母亲。
体育の先生は柔道四段の腕前だ。/我们的体育老师有柔道四段的水平。
7.中国語では現れる副詞“就”
日本語の文中ではかならずしも具体的な語として現れていなくても、中国語では副詞“就”を用いることがある。
1「すぐ」「もう」などのニュアンスがある場合。この意味を表す“就”は、ほかの具体的な語句“一会儿”“很快”“马上”“赶快”“连忙”などの副詞とともに使われることも多い。例:少したてば(すぐ)よくなります。/过一会儿就好了。
1時間もすれば(もう)夜があける。/再过一个小时天就亮了。
今(すぐ)あきらめるのは時期尚早である。/现在就死心还为时过早。
調査班は明日には(もう)出発する。/调查组明天就出发。
彼は5歳のときには(もう)ピアノが弾けた。/他五岁时就会弹钢琴。
彼は家に帰ると(すぐ)おふろに入る。/他一回到家就洗澡。
2また、前文をうけて、「それなら」とスムーズに接続するときも“就”を欠かせない。例:それを聞いて安心した。/听了那消息以后我就放心了。
この薬をのめばよくなります。/吃了这药病就会好的。
3「まさに、ほかでもなく」という肯定の気持ちを表したいとき。
例:「どの人が趙くんですか」「顔の丸い人が趙くんです」。/“谁是小赵”“圆脸的就是小赵。”
「すみません、王さんはいらっしゃいますか」「私ですが、どちらさまですか」。/“请问,王先生在吗”“我就是、您哪位”。
きみの言うとおりだ!そうしよう。/你说的对!就这么办吧。
買わない、買わない、絶対買わない。/不买不买我就不买。
人がどう言おうと気にしない、ぼくはこの料理が好きだ。/不管别人说什么我都不在乎我就喜欢吃这个菜。
8.★用例集
例:トマトをまだ青いうちに収穫する。/在西红柿还没熟之前就进行采摘。
こう不景気では商売あがったりだ。/这么不景气的话生意就完蛋了。
あそこに見えるのがレインボーブリッジです。/从这儿看到的那个就是“虹桥”。
暑くならないうちに出かけよう。/趁天气还不太热就出去吧。
雨の場合は延期になる。/下雨的话就延期举行。
警官が現れると、はみな逃げだした。/警察一出现歹徒们就都逃走了。
牛乳を飲むとアレルギーを起こす。/一喝牛奶就过敏。
知らせを聞いて安心した。/听了这个消息我就放心了。
先だってきみが言ってた店はこの店かい。/你前几天说的就是这家店吗。
けんかしたらパパに言いつけるわよ。/你们要是吵架我就告诉爸爸去。
これが時の勢いというものだ。/这就是大势所趋。